もっとも、「不当な目的で破産手続きの開始申し立てたがされたとき」だとして破産申立が却下されたケースが皆無というわけではなく、以下の例で却下されています。 ① 全債務の8割が特定の債権者である。 ② 従前の給料なら、充分返済が可能である。 ③ ところが、親族である勤務先の代表者と通じ、自己の給料が大幅に削減された外形を殊更に作り出した。 まあ、こういう極端なケースならありうるかもしれませんが、極めて特殊な例外でしょう。
これについては、実は、最高裁の判決があります。最判H5.1.25、民集47-1-344で、要旨は、以下のおとりです。 「特定の債務の弁済にあてることを予定された借入金によって当該債務の弁済を行っても、そのような場合は破産債権者を害するものでなく、当該弁済は否認の対象にならない。 」 つまり、総資産に変動はないから、破産債権者を害する者とは言えないということです。ただし、この判決は、この借入金が総債権者のために借り入れたものでなく、特定の債務の弁済のためであることが客観的に認定されることが必要だとして、以下の前提条件を必要としています。 ① 借入債務が弁済された債務より利息等その態様において重くなく、借入前と本弁済後とでは、破産者の積極財産の減少も消極財産の増加も生じていない。 ② 特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れたもので、それ以外の使途であれば借り入れることができなかったもので、貸主と債権者の立合の下に借入後、その場で直ちに借入金による弁済をしており、前記約定に違反して借入金を流用したり、差押え等のために前記約定を履行できなくなる可能性もなかった。
最高裁の判例を踏まえて、実務では、以下の要件に該当することを要求しています。 ① 借り入れに当たり受益者への弁済目的が明確にされていること。 (特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れたもので、それ以外の使途であれば借り入れることができなかった) ② 借り入れと弁済が密着していること。 (貸主と債権者の立合の下に借入後、その場で直ちに借入金による弁済をしており、) ③ 資金の現実の流れ方などの事情に基づいて借入金が他の債権者のための共同担保とみなされる余地がないこと。 (前記約定に違反して借入金を流用したり、差押え等のために前記約定を履行できなくなる可能性もなかった)
しかし、要件がかなり厳しい。 まず、保証債務の弁済期間は5年でなければならない。5年で弁済するためには、保証債務について一部免除してもらい残余について分割で弁済をすることになりますが、以下の2要件に合致して、初めて免除の対象になります。 ① 保証人である社長が、正直に資料を添えて全財産を開示し、専門家が調査して全財産を開示したかどうかを確認すること。 ② その弁済計画案が、対象債権者にとって経済的な合理性があると認められること(つまり、破産するよりはマシ)
[会社の清算] 後継者がいないとか、病気でこれ以上経営できないというときに、自主解散をします。この場合、 ① 株主総会の特別決議(議決権を有する株主の過半数が出席し、出席株主の3分の2の賛成)で解散決議をして清算人を選任し、 ② 清算人が会社財産を換価して債権者に弁済し、 ③ 残余があれば株主に分配し、 ④ 最後にもう一度株主総会を開いて承認を得て会社は消滅します。 ⑤ 清算結了登記も必要です。
しかし、債務超過の場合は、特別清算という手続きを経ることになります。
[特別清算] 特別清算は、清算中の会社が債務超過のため全債権者に配当できないときに利用される手続きです。破産と異なり、清算中の会社しか利用できませんが、管財人を選任する必要はなく、申立て時に総議決権の3分の2以上の同意があるなら、予納金も5万円で済みます。 また債権者集会で協定を締結する協定型は債権者平等原則が適用されますが、個別の債権者と和解する和解型をとるなら、債権者ごとに異なる和解ができます。 しかし、破産が債権者の同意なく強引に手続きをすすめることが出来るのに対し、特別清算は、総議決権の3分の2以上の同意が必要となるため、事業の倒産処理手続きとして利用されることは、ほとんどありません。 〈子会社の清算〉 では、どういう場合に利用されるかというと、実務上は、親会社が、経営に行き詰った子会社を清算するのに利用されています。 ① 子会社が事業に失敗し多額の負債を抱え込んだ。 ② 親会社が子会社に融資し、子会社は、その融資したお金で親会社以外の負債を全て返済する。 ③ 債権者は親会社だけになる。 ④ 子会社は親会社との間で協定や和解をして特別清算し会社を解散させる。 〈不採算部門の清算〉 そのほか、会社のうち採算性のある部門を事業譲渡するか会社分割し、残った不採算部門を特別清算を利用して廃業する場合にも利用されています。 年間処理件数は、全国で300~400件ですから、民事再生が年間約165件程度しかないことを考えると、それなりに利用されています。ただ、特別清算は、法制度上は、倒産制度の一環ですが、実際は、子会社の清算、不採算事業部門の清算に利用されているのが現実です。