これについては、実は、最高裁の判決があります。最判H5.1.25、民集47-1-344で、要旨は、以下のおとりです。 「特定の債務の弁済にあてることを予定された借入金によって当該債務の弁済を行っても、そのような場合は破産債権者を害するものでなく、当該弁済は否認の対象にならない。 」 つまり、総資産に変動はないから、破産債権者を害する者とは言えないということです。ただし、この判決は、この借入金が総債権者のために借り入れたものでなく、特定の債務の弁済のためであることが客観的に認定されることが必要だとして、以下の前提条件を必要としています。 ① 借入債務が弁済された債務より利息等その態様において重くなく、借入前と本弁済後とでは、破産者の積極財産の減少も消極財産の増加も生じていない。 ② 特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れたもので、それ以外の使途であれば借り入れることができなかったもので、貸主と債権者の立合の下に借入後、その場で直ちに借入金による弁済をしており、前記約定に違反して借入金を流用したり、差押え等のために前記約定を履行できなくなる可能性もなかった。
最高裁の判例を踏まえて、実務では、以下の要件に該当することを要求しています。 ① 借り入れに当たり受益者への弁済目的が明確にされていること。 (特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れたもので、それ以外の使途であれば借り入れることができなかった) ② 借り入れと弁済が密着していること。 (貸主と債権者の立合の下に借入後、その場で直ちに借入金による弁済をしており、) ③ 資金の現実の流れ方などの事情に基づいて借入金が他の債権者のための共同担保とみなされる余地がないこと。 (前記約定に違反して借入金を流用したり、差押え等のために前記約定を履行できなくなる可能性もなかった)